2015年5月16日土曜日

写真よりもきれいな言葉 チェーホフ短編









関薫写真展「オオミズアオ」は明日(2015/05/17)の20時までとなっております。

皆様のお越しをお待ちしております。



最近読んだチェーホフの短編の中から特に良かった2編『かき』と『グーセフ』を紹介します。
まずは『かき』。
仕事が見つからず、いよいよ物乞いをするほかないという状況の父親に連れられ、街に出てきた主人公の少年。空腹で今にも倒れそうな彼は通りを挟んだ向かい側にある《飲食店》という看板を掲げた3階建ての家の窓々を見上げる。
「窓の一つをじっと見つめているうちに、ぼくは、ふとなにやら白っぽい斑点(しみ)に気がつく。そのしみは、ちっとも動かずいちめんに暗い茶色をした背景の上に、四角い輪廓をくっきり浮きたたせている。ぼくは目をこらして、じっと見つめる。すると、そのしみが壁の白いはり紙だとわかってくる。はり紙には、何か書いてあるが、何が書いてあるのか見えない。……」
僕が一番印象に残ったのはこの後少年に起こる‘覚醒とその過程’です。感覚が研ぎ澄まされていく少年はやがて「か・き……」と、はり紙の字を読む。かき(牡蠣)を見たことのない少年は父親に「かきってなあに」と聞きます。父親は「そういう生きものだよ。……海にいるな……」と答えます。そこから少年の想像力は未知のかきに対して爆発します。その爆発っぷりは圧巻です。子供向けの短編として書かれたものらしいですが、大人でも十分に楽しめる内容です。
次に『グーセフ』。
こちらは何と言ってもラスト。病に伏し役に立たなくなった帰還兵のグーセフとパーヴェル・イヴァーヌィチの、序盤からラストまで続くやりとりも良いのですが、グーセフが力尽き、帆布で錘(おもり)と一緒にぬいぐるみにされ海へと落とされ沈んでいく、その際の描写に心動かされました。はじめに読んだ時、なぜか〈写真よりもきれいな言葉だ〉と思いました。違和感のある変な言葉かもしれませんが、なぜそう思ったのか考えてみると、一連の描写が連続的な時間を書き綴っていてとても映像的なため、写真で表すのは難しいと感じたせいかもしれません。そんな風に感じさせる神西清さんの翻訳も素晴らしいです。インターネット(青空文庫)などで無料で読めるので読んだことのない方は是非。

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